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住宅価格に気をとられて金融緩和が行き過ぎれば、住宅バブルが再発する前に、国際商品市況のバブルやドル安バブルを生み、インフレと不況の板ばさみ(スタグフレーション)という最悪の事態にもなりかねない。

公的資金投入の原則が定め難いもう一つの難問は、更に厄介である。 九七年から始まった日本の金融危機では、整理すべき不良債権・不良債務は、銀行と企業の関係であった。
しかし、今回の米国の金融危機では、不良債権を持っているのは銀行のみならす、住宅□ーンの証券化商品や派生商品に投資した証券会社などの投資銀行、生保、ヘッジーファンドなどの各種ファンド、更には自動車ローンや消費者ローンを提供しているビッグースリーの金融子会社などの消費者金融会社、Aのようなカード会社などである。  対するに、不良債務を背負っているのは企業ではなく、家計である。
 ここから二つの問題が出てくる。 第一に、日本の場合は公的資金投人の対象が銀行であったから、「金融安定化法」と「金融早期健全化法」によって、公的資金投入の原則をはっきりさせ、不良債権処理で経営困難に陥った銀行の救済、あるいは整理が行われた。
 しかし今回の米国の場合は、不良債権の減価、あるいは償却で経営困難に陥っている金融機関は、大証券会社のような投資銀行やAのような大生保会社だけでなく、各種のファンドや自動車ローン・消費者ローン会社、カード会社までいる。 これらの多様な金融機関に対して、どのような原則で公的資金を投入したり、不良債権を買い上げたりするのか。
 銀行であれば、預金という国民の決済勘定(頂金通貨)を預かっており、銀行システムの混乱は国民のインフラストラクチャーである決済システムの混乱を意味するので、国民の血税(公的資金)を使って支援するのは「公益」として許容され易い。 しかし、各種のファンドやビッグースリー、ローン会社などに公的資金を投入したり、公的資金で不良債権を買い上げたりするのは、果たして「公益」にかなうのか。

他の産業は自力で努力している時に、「私益」で動いているこれらの金融業に血税を投入するのは不公平ではないか。  こうした疑問は当然である。
このため、金融安定化法で七〇〇〇億ドルの公的資金を用意したものの、その投人先を巡って議論が絶えないのである。  家計の不良債務処理には時間がかかる もう一つの問題は、債務者側の家計である。
日本の場合のように、不良債務を負っているのが企業であれば、返済能力のない企業は不良債権が更に膨らまないうちに倒産させ、残った資産の範囲内で回収し、残りは貸し倒れとして償却される。 あるいは不良債権を整理回収機構に売却して、回収をまかせる。
 しかし、家計に対する不良債権について、このような処理は出来ない。 複数の自宅を持つ家計なら、不良債権の担保に入っている住宅を差し押さえ、中古住宅市場に売却してローンの一部を回収することもあるであろう。
しかしサブプライムーローンの対象者のように一軒の家しか持っていない場合は、家を差し押さえて売却すれば路頭に迷うことになる。 これは大きな社会問題になるであろう。
 結局、不良債務者が家計の場合は、返済期限を延長し、長期間をかけて家計の所得から回収するしか道はない。 つまり、不良債権処理に非常に時間がかかるということである。
 その結果、不良債権を長期間保有する金融機関の経営は悪化し、金融危機は長引く。  恐らくO政権は金融機関に対して、住宅の差し押さえ、売却をせず、返済期間を延長するよう要望しながら、何らかの原則をたてて、公的資金の投入、あるいは不良債権の買取りをせざるを得ないであろう。
しかし、公平な原則を作るのは、前述のようにやっかいであり、政治力が要る。  家計の債務返済=貯蓄率上昇が景気の停滞を長引かせる 以上は金融危機の側の話であるが、このことは景気後退の側にも大きな問題を投げかけている。
 米国の家計の負債はいま米国のGDPと同じ規模まで膨張し、そのかなりの部分が不良債務となっている。 時間をかけて住宅ローンや自動車などの消費者ローンの不良債権を限られた家計の所得の中から回収していくということは、その問家計は消費を節約し、住宅購入を控えて貯蓄を増やし、返済資金に回すことになる。
 家計債務残高対GDP比率は、金融仲介業の発達に伴う金融資産・負債残高対GDP比率の上昇トレントを反映して、若干の上昇トレントを持っている。 そこで今回の長期繁栄が始まる九二年以前の上昇トレントを最近まで延長してみると、現時点でトレント線を上回っている過剰債務は、家計債務残高の約四分の一である。

 そこで仮に、米国の家計が対GDP比率で債務を四分の一まで減らすとすると、米国のGDP一四・二八兆ドル(○八年)の四分の一、すなわち三・五七兆ドル(約三四〇兆円)が貯蓄に回り、総需要から消えることになる。 これを五年問で行うとすれば毎年六八兆円(GDPの五%)、一〇年間で行うとすれば毎年三四兆円(GDPの二・五%)の需要が失われる。
日本でも、資産バブルの崩壊で発生した不良債権を処理するのに○四年頃まで一〇年余りを要したが、恐らく米国でも一〇年はかかるかも知れない。 その一〇年の間、GDPの二・五%に相当する家計の需要が毎年存在しなくなるとすれば、米国経済の成長には大きなブレーキが懸かるであろう。
 米国経済は、O大統領の景気対策法(七八七〇億ドル)によって、一〇年にはゼロ成長近傍に戻るとしても、その効果が途切れる一一年以降は数年間にわたって停滞気味に推移し、ダブルーディップ(もう○年にV字型回復を思わせるプラス二・六%になっていたが、さすがに同年四月現在の予測ではゼロ成長に下方修正され、しばらく底を這う形になっている)。  このことは、世界経済にとっての意味も大きい。
九二年から○七年までの米国の長期繁栄をリードしてきた米国家計の三四〇兆円(約三・六兆ドル)の支出増加がなくなるだけでも、世界経済拡大の牽引力は大きく失われる。 見方をかえると、米国に三四〇兆円の貯蓄増加が起こって世界経済拡大のブレーキになるのかも知れない。
空恐ろしいことである。  「円安バブル」の大罪。
 日本の大不況が始まった。  米国という名の機関車が姿を消した影響が最初に日本に現れたのは、○八年第4四半期と○九年第1四半期の輸出である。
GDP統計によると、実質輸出はそれぞれ前期比マイナスー四・七%とマイナス二六・〇%の急落となった。 このため実質「純輸出」の実質成長率に対する寄与度は、それぞれマイナス三・二%とマイナス五・四%に達した。
戦後最長景気を支えてきた「純輸出」が、○八年第4四半期以降急落し、実質GDPの水準を大きく引き下げたことは聡明な方ならご理解いただけているだろう。 二つの四半期の実質成長率は、それぞれマイナス三・六%(年率一三・五%)、マイナス三・八%(同一四・二%)と記録的な落ち込みであるが、この落ち込みに対する「純輸出」の寄与率は、それぞれ八九%と三七%に達する。

いかに輸出減少の衝撃が大きいかが分かる。  輸出の総額と国・地域別内訳を前年比で見ると、その様子が良く分かる。

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